漢方小話

日常生活、食事や運動など、薬以外のこともアドバイスさせていただきます。

空腹を満たすことが食べることの目的ではない。美味しいものを食べることは人生の楽しみの一つです。
日本は四季折々の美味しいものが楽しめる国です。健康だからこそ美味しいものが食べられ、美味しいものを食べるからこそ人は健康でいられる、というのが真実です。しかし、私たちの体の健康に非常に大きな影響を与えている事に気付かない人も多いのではないでしょうか。
食べるという行為を空腹を満たすためだけに行い、好きなものだけを偏って食べるとか、インスタント食品ばかりを食べる人がなんと多い事でしょうか。
最近特に多いアレルギー疾患や、糖尿病や、がんの多発は、生活習慣の一つである食事の誤りに起因することを、真剣に考えなくてはならないでしょう。
食生活の誤りは肉体面の健康だけでなく、精神面の健康にも悪影響を及ぼします。
人間は健康でないと正しい思考はできません。僅かなことに怒りっぽくなっている人は心から物事を楽しめなくなって、表情にも険しいものが出てきます。これがヒステリー性の顔貌ですが、こういう人の内臓を調べると、肝臓機能が低下したりしています。
健全な精神は健全な身体にこそ宿ります。

戦後日本は急速に欧米の食文化が浸透して、食生活はバラエティに富んだ豊かなものになり体格は確かに大きくなりました。しかし体力や持久力においては低下していると言えるでしょう。
子供に糖尿病などの成人病が見られる様になりました。成人病という名称が生活習慣病と改名されました。
スギ花粉症は今や国民病と言われる様になりましたが、これは自動販売機などの飲料水の普及も一つの原因であると東洋医学では考えています。特に冷たいものは水分代謝に変調をきたし、くしゃみ鼻水を悪化させているという事です。
体調を壊すと人はすぐ薬を求めます。確かに薬で治療するのはある時点では必要なのですが、食生活に問題があるのでれば、先ずは食事を充実させることが大切なのです。
これを医食同源といいます。日本の風土に合った食養生があります。

東洋医学では、人間が自然環境と調和して生活することが健康の基本です。
「身土不二」とは住んでいる土地でその季節に取れたものを食べるという意味です。私たちは土地や環境の中で生かされているという考え方です。私たちの身体と住んでいる環境は同じものということですね。
北極で生活しているエスキモー人は一切野菜を食べずに、アザラシの生肉を食べます。 赤道直下のインドでは四つ足動物の肉は食べずに果物をよく食べます。これらは何を意味するのでしょう。北極のような極寒の地域では、体を温める肉を主食とします。インドのような極暑の地域では陽の強い肉は避けて体を冷やす果物を食べます。こうして陰陽のバランスをとるのです。
身の回りで採れたものを食べればよいのです。旬のものをたべればよいのです。安価で美味しく健康によいです。
「一物全体」とは、食物は丸ごと食べましょうという考えです。そのほうが栄養のバランスがよいのです。魚は丸ごと食べればよいし米は玄米がよいということです。体質や食材によっては全部食べられないことも多いですのであくまで理想は、ということで。
私たちの国の食材は、山のもの、海のもの、季節によっても様々です。調理法も様々です。偏って食べるのではなく、バランス良く楽しんで食事をしましょう。

台湾の台北市にある漢方薬問屋街(ディファチェ)へ行くと、店頭にはスルメ、ナツメ、ヤマイモ、などが山積みされ、大きなガラス瓶には貝柱、ナマコ、干しアワビ、などが詰め込まれています。
台湾や中国の人たちは、市場などで食材を選ぶときには、薬屋で薬を選ぶ感覚を大切にしています。
「薬膳」というような特別な感覚でなく、庶民の毎日の食生活の中に自然に溶け込んでいます。
人参、黄耆、枸杞子、山薬(ヤマイモ)、蓮肉(ハスの実)、当帰、生姜(ショウガ)、大棗(ナツメ)、菊花、ハトムギ、陳皮(ミカンの皮)、百合(ユリの根)、茯苓、杏仁(アンズの種)、烏梅(ウメの実の加工品)などです。
中華料理では、細かく栄養を配分し、ビタミンやミネラルが不足しないようにバランスをとります。
例えば肉料理がメインであれば豆腐や卵を一品、海のものを一品、そして野菜を一品添えるという風に気配りされています。ビタミンが豊富なレバーや野菜もたくさん使っています。
料理法も一皿目が炒め物ならもう一皿は蒸し物に、一皿目が揚げ物ならもう一皿はあっさりした野菜料理に、という風にバランス配分されています。
中華料理が世界一級と言われる所以です。

「血圧が上がるからとりすぎてはいけません」とか、減塩にしなさい」とか否定的に捉えられることが多いですが、全く違います。悪いのは「食卓塩」と呼ばれる精製塩(塩化ナトリウム99.7%)という化学薬品です。
食養で言う塩とは、昔から用いられてきた海水塩、すなわち自然塩(塩化ナトリウム93~95%)のことです。豊富な天然ミネラルが含まれています。
人間の血液は0.85%の塩分を含んでおり、羊水は太古の海水にそっくりです。生命の起源はこの自然塩水なのです。高血圧の人が食卓塩を取ると血圧は上がります。しかし自然塩を取ると血圧は逆に下がりますし、低血圧の人は上昇し正常値になるという実験結果があります。
精製塩は食物ではなく、有害な化学物質という認識が食用の世界では広がっています。
自然界には単一精製成分などは存在しません。こういう化学物質に順応する機能は人間や生物にはありません。余分な水分を取ったとき、あるいは体内の塩分が少ないときは、皮膚や呼吸器から汗や痰として排泄されます。特に鼻水として水分が排泄されると、アレルギー性鼻炎の症状を悪化させます。
また皮膚からの排泄は体の上部ほど多量になるので、首から上に充血を起こして頭痛の原因になります。
つまり鼻炎や頭痛、痰、汗などは、水分の取りすぎと塩分の欠乏のための水分逆流現象なのです。
日本は大陸性気候とは異なり湿度が高いので、余剰水分(水毒)が溜まりやすいです。特に冷たい水分は体を冷やすばかりでなく水分排泄に負担をかけますから程々にしたいです。
私が真夏に台湾を訪れたとき(日本よりもさらに暑い台湾ですが)、先生の所でも飲食店でも氷水はでてきません。 出てくるのは温かいお茶です。